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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)8654号 判決 1963年9月04日

判   決

東京都大田区入新井四丁目一九番地三

原告(反訴被告)

上中健治

右訴訟代理人弁護士

寺口健造

東京都大田区入新井四丁目一九番地二

被告(反訴原告)

吉中藤五郎

右訴訟代理人弁護士

井本良光

右当事者間の昭和三五年(ワ)第九六六五号通行権確認請求事件昭和三六年(ワ)第八六五四号通行禁止請求反訴事件について当裁判所は次のように判決する。

主文

原告が別紙第一目録(三)記載の土地のうち同第五目録記載の部分について通行権を有することを確認する。

被告は原告に対し前項の部分の通行の支障となるべき工作物、植木等を除去し、かつ原告の通行の妨害をしてはならない。

反訴被告は反訴原告に対し別紙第一目録記載の土地のうち同第四目録記載の部分を通行してはならない。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は本訴及び反訴を通じてこれを三分しその一を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)の各負担とする。

事実

一、原告(反訴被告、以下たんに原告という)訴訟代理人は本訴につき原告が別紙第一目録(三)記載の土地のうち同第二目録記載の部分について通行権を有することを確認する。被告(反訴原告、以下たんに被告という)は原告に対し原告が右部分の土地を通行することを妨害してはならない、仮りに右各請求が理由がないとすれば、原告が別紙第一目録(三)記載の土地のうち同第三目録記載の部分について通行権を有することを確認する、被告は原告の右土地部分の通行を妨げたり、原告のする通行妨害物件の除去を妨げてはならない、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、反訴につき本案前の申立として被告の反訴を却下する旨の判決を求め、本案の申立として被告の反訴請求を棄却するとの判決を求め、本訴請求原因、反訴の答弁及び被告の主張に対する反論として次のように述べた。

(一)別紙第一目録(一)記載の土地はもと訴外守屋善輝の所有で、右土地はその南側において幅二メートルの公道に接していたが同人は昭和二二年一二月二六日これを同目録(三)記載の土地と残余の土地六三坪七合七勺(第一目録(二)及び(四)記載の土地)とに分割の上右(三)の土地を被告に譲渡したため、右六三坪七合七勺の土地は袋地となつた。次いで昭和二三年三月中旬ごろ守屋は右六三坪七合七勺を被告に譲渡し、被告はこれを別紙第一目録記載(二)及び(四)の二筆に分割の上、右(四)の土地を原告に譲渡し、登記は中間省略により守屋から直接原告に移転登記がなされた。原告はこれよりさき右(四)の土地に含まれる二三坪を守屋より建物所有のため賃借し、地上に木造瓦葺二階建居宅一棟一四坪一合二階三坪を建築所有し、これに居住しているが建築当時右(三)の土地は南北に通ずる疎開道路敷地となつていたので、右家屋はこれに向けて玄関と門を作つたが後に右道路は廃止された。

右の次第で原告所有の右(四)の土地は袋地であり、民法第二一三条第二項によつて公道にいたるまで被告所有の右(三)の土地を通行し得べきところ、このためには右(三)の土地中別紙第二目録記載の土地部分が通行権を有する原告のために必要でかつ囲繞地のため損害が最も少いものというべきである。けだし被告は右(二)の土地と(三)の土地にまたがつてアパート「吉荘」を所有し、右アパートのため南側公道から隣地二〇番宅地との境界線にそつて建築基準法第四三条及び東京都建築安全条例第三条の規定により幅員五メートルの通路があるはずであるし、原告もまた右宅地の利用のため右法規上必要とする幅員五メートルの通路を必要とするからである。

しかるに被告は原告の右通行権を争い、現に右(三)の土地上に自己の住宅を建築し、原告の通行権を有する右部分にかけて板塀をはり出し、またこれに塵芥を捨てる穴を掘つたり車を置いたりしてその通行を妨害している。よつてここに被告との間で原告が右(三)の土地上別紙第二目録記載の部分に通行権を有することの確認を求め、かつ被告に対し右通行の妨害禁止を求める。

(二)  仮りに右部分の通行権が認められず、その請求が理由がないとすれば、別紙第三目録記載の部分の通行権を主張する。この場合原告の土地から公道へは最短距離となり、前記法規による必要幅員は三メートルで足りるところ、被告所有の右(三)の土地と東隣一八番の二の土地との境界に接する部分は物置及び植込等があるだけで、被告の住宅と右境界との間には十分の距離があり、右範囲の通行によつて被告の損害は最も少くなる。よつて原告が右部分の通行権を有することの確認を求めるとともに、被告に対し原告の右通行を妨げたり原告のする通行妨害物件の除去を妨げたりすることの禁止を求める。

(三)  被告の反訴は訴の利益を欠くもので不適法である。

(四)  被告の自白の取消に異議がある。原告の土地の西側から公道に達し得るとの主張は否認する。

二、被告訴訟代理人は本訴につき原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、反訴につき、主文第三項同旨の判決を求め、本訴の答弁及び反訴請求原因として次のように述べた。

(一)  原告主張の事実中別紙第一目録(一)記載の土地がもと訴外守屋善輝の所有であり、これが同目録(三)の土地と残余の土地とに分割され、残余の土地が同目録(二)と(四)とに分割され、被告が右(二)と(三)の土地を守屋から買い受け所有権を取得し、原告が右(四)の土地を所有すること、(三)の土地には以前原告主張の疎開道路があつたが、その後廃止されたこと、被告が原告主張の個所に自己の住宅を建築し、原告主張の部分に板塀を作り、塵芥用の穴を掘つたり車を置いたりしていることは認めるが、その余の事実は争う。

(二)  原告所有の右(四)の土地は袋地ではない。この点につき被告がさきにした自白は真実に反し錯誤にもとずくから取り消す。すなわち右土地はその西隣同所一六番地内の私道に接しており、事実原告は従来これを利用して公道に出ていたが右私道所有者との折合が悪く昭和三三年中に閉鎖されたため、それ以来勝手に被告所有の右(三)の土地中別紙第四目録記載の部分を通行しているに過ぎない。仮りに右(四)の土地が袋地であるとしても原告は右(四)の土地を守屋から直接買い受けたもので、被告が譲渡したものではないから、被告の土地の上に通行権を主張するのは失当である。仮りに通行権を有するとしても原告主張の別紙第二目録記載の部分は不当である。これは原告の生活上の必要を越えるのみならず被告の犠牲を過大ならしめるものである。被告は右部分についてはアパートの建築を計画しているのである。右通行権の範囲は右(三)の土地と西側隣地一八番との境界にそい公道から原告の土地までせいぜい幅二、三尺あれば十分である。

(三)  しかるに原告はなんら通行権を有しない別紙第四目録記載の部分を通行して被告の所有権を妨害している。よつてここに反訴をもつて右通行の禁止を求める。

三、立証≪省略≫

理由

別紙第一目録記載(一)の土地がもと守屋善輝の所有であり、同人がこれを同目録記載(三)の土地と残余の土地六三坪七合七勺とに分割し、次いで残余の土地が同目録(二)と(四)の土地に分割され、右(三)の土地及び(二)の土地を被告において買い受けて所有権を取得し、(四)の土地を原告が買い受けてこれを所有することは当事者間に争ない(原告は右(二)と(四)の土地はいつたん被告が守屋から買い受けた後その一部である(四)を原告に分譲したものであると主張し、被告はこれを争い、右(四)の土地は原告が直接守屋から買い受けたものであると主張するが、右(四)の土地が袋地であることは後記のとおりであるところ、その袋地となつたのは右(一)の土地が(三)の土地と残余の土地とに分割された時にすでに生じているのであるから民法第二一三条の囲繞地通行権の問題としては、右は結論に影響ない)。

右(四)の土地が袋地であることは被告においていつたん自白したところであるが、被告は右自白の取消を主張するので、その許否について検討するに、(証拠―省略)をあわせれば右(四)の土地は西隣の同所一六番地の土地との境界二ケ所に木戸を設けているが、これらの一つは直接他人の敷地(庭)に開くものであり、他は右一六番地の所有者がその敷地のために設けた私道に接するものであり、前者は非常の場合にのみ用いるべく、後者はたんに事実上私道の所有者に黙認されていたに止まり、現在はその一方的処置で閉鎖されていることが明らかであるから、これらをもつて本件(四)の土地が公道に通じるものとはとうてい認めがたく、証人(省略)の証言及び被告本人尋問の結果によつてはまだこれを認めるに十分でなく、その他に右自白が真実に反し錯誤にもとずくことはこれを認めるべき明確な証拠がないから、右自白の取消は許し得ず、本件原告の(四)の土地が袋地たることは当事者間に争ないものとしなければならない。

原告の右(四)の土地が袋地となつたのは前記(一)の土地から(三)の土地を分割譲渡した結果であり、(四)の土地は現に原告の、(三)の土地は現に被告の各所有に属するところであるから、(四)の土地の所有者である原告は民法第二一三条によつて(三)の土地につき通行権を有するものといわなければならない。

よつて右通行権の範囲について検討する。原告はまず別紙第二目録記載の部分を主張するけれども(証拠―省略)をあわせれば右(二)の土地と(三)の土地の一部にまたがつて現在被告所有のアパート「吉荘」があり、その建築関係法規の上では右(三)の土地南側の公道から西側隣地との境界によつて幅員五メートルの道路があることとなつており、現場においては原告主張の第二目録記載の部分にほぼ一致して現在別紙第四目録記載の部分が通路状をなして、現に原告がこれを通行しており、被告の自宅の建物そのものは原告主張の範囲にはかからず、わずかにその板塀の一部がかかるに過ぎないけれども、前記「吉荘」のために存すべき道路はたんに図上のものに過ぎず、被告はこれらの部分を含めて本件(三)の空地にさらにアパートを建築する計画をたてており、その場合は既存のアパートのための通路を含めて別個の利用を考えていることが認められ、これと原告主張の如くであれば右(三)の土地を大きく分断しその五分の一内外を提供せしめることとなることを考え合わせれば、右は被告の土地のため損害を過大ならしめるものであつて、許容し得ないところである。従つて右部分について通行権を有することを前提とする原告の第一項の請求は理由がない。

次に原告の主張する別紙第三目録記載の部分についてみる。この部分はその位置としては被告もこれを受忍し得るものとすることは明らかであるが、原告は右を公道から境界にそつて幅三メートルと主張するに対し、被告は幅二―三尺あれば十分であるという。しかし袋地のための通行はたんに人の身幅を容れるに足ればよいというのではなく、また、袋地のあらゆる使用に適するに十分でなければならないものでもなく、その袋地の通常の用法に従つた通行を可能ならしめるものであることを要し、かつこれをもつて足りるものである。本件の場合は現に住居の敷地であり、そのための通行はすなわち住居への出入であるから、時には荷物をもち、時には雨傘をさして通ることもあるので、幅二・三尺で足りるというものではない。さりとて建築基準法及び東京都の条例で建築上必要とされる幅員を当然要求し得るものではない。これは行政上の目的から建物建築のために要求されるのであつて現に存する住居への出入を確保するための囲繞地通行権そのものとは関係がないのである。原告の主張する幅員三メートルは被告の損害を過大ならしめるものであつて採用できない。しかして検証の結果によつて現地の事情を勘案すれば右(三)の土地の南側二メートルの公道から右土地と西側隣地同所一八番地との境界にそつて幅員二メートルで原告の土地(四)にいたるまでの部分は、被告方の物置、異動可能の水槽、二、三の樹木があるほかは被告の住宅そのものはかからず、かつ袋地と公道とを結ぶ最短距離であり、原告のために必要で、被告にとつて損害最も少いものと認める。すなわち原告は別紙第五目録記載の土地部分について通行権を有するものというべきである。あるいはこの幅員では将来原告が右(四)の土地において建物を新築することは事実上不可能となることはあり得るであろう。しかしもともとこのような袋地の利用価値はしよせん直接公道に接している土地とは異なるのであつて、やむを得ないところであつて、これを囲繞地通行権によつて隣地所有者の意思にかかわりなく解決しようとしてもおのずから限度があることを知らなければならない。

よつて原告が右部分について通行権を有することはこれを確認すべく、被告は右部分上に所有する物置、樹木その他の障害物を除去し、原告の通行を妨害しない義務があるものというべきである。

次に被告の反訴について判断する。原告は被告の反訴は訴の利益を欠くと主張するところ、本訴において原告が第一次に主張する通行権の範囲(別紙第二目録記載の部分)は被告が反訴において通行の禁止を求める範囲(別紙第三目録記載の部分)を含むことは明らかであるが、被告が本訴においてたんに原告の右の請求を棄却するとの判決を求めるだけでは原告が右部分について通行権を有しないことが確定するだけで、現にしている通行を禁止するまでの効果はないから、被告が反訴において右通行の禁止を求めるのは訴の利益あるものというべく、この点の原告の主張は失当である。そしてすでに原告がその主張の別紙第二目録記載の土地部分について通行権を有しないこと、右部分に含まれる別紙第四目録記載の土地部分を原告が現に通行していることはさきに本訴において判示したとおりであるから、原告はこれによつて被告の所有権の行使を妨害するものというべく、被告は右妨害の廃止を求め得ること明らかである。

よつて原告の本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余を理由のないものとして棄却し、被告の反訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条を適用し、仮執行の宣言は本件につき相当でないからこれをしないこととし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第一三部

判事 浅 沼   武

第一目録

(一) 東京都大田区入新井四丁目一九番

一、宅地二六一坪三合三勺

別紙添付図面中(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)の各点を順次結んだ線内の土地

(二) 同所同番の一

一、宅地三四坪三合五勺

別紙添付図面中(ハ)(ヘ)(ト)(チ)(ハ)の各点を順次結んだ線内の土地

(三) 同所同番の二

一、宅地一九七坪五合六勺

別紙添付図面中(イ)(ロ)(ホ)(ヘ)(ニ)(イ)の各点を順次結んだ線内の土地

(四) 同所同番の三

一、宅地二九坪四合二勺

別紙添付図面中(ホ)(ト)(チ)(ホ)の各点を順次結んだ線内の土地

第二目録

右第一目録(三)の土地中別紙添付図面中(イ)(リ)(ト)(ヲ)′(ル)′(ヌ)′(イ)の各点を順次結んだ線内の土地部分

第三目録

右第一目録(三)の土地中別紙添付図面中(ロ)(ホ)(カ)′(ワ)′(ロ)の各点を順次結んだ線内の土地部分

第四目録

右第一目録(三)の土地中別紙添付図面中(イ)(リ)(ト)(ヲ)(ル)(ヌ)(イ)の各点を順次結んだ線内の土地部分

第五目録

右第一目録(三)の土地内において右土地とその西側隣地一八番地との境界にそい、これと二メートルの間隔を存する平行線が南側公道、北側原告所有の同所一九番の三の土地とに各接するまでの右線内の土地部分(別紙添付図面(ロ)(ホ)(カ)(ワ)(ロ)の各点を順次結んだ線内の土地)

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